最近終わりが近付いてピッチを上げているので、折原訳の細かいミスは敢えて一々取り上げていませんが、久々に変な訳が続出しています。
(1) ernstlich は bestrittenにかかる副詞だから、「重大視され」ではなく「手厳しく論難された」ぐらい。
(2) mitbeteiligtのmitは資本主義的な経済システムの展開について関与した、ということであり、折原訳の「[一要因として、他の諸要因とともに]顕著に協働した」という訳と補足は明らかな誤訳です。大体ゾンバルトが「資本主義発展に影響を与えたものには色々あるがユダヤ教はその一つである」なんて弱い主張をする筈がないです。ヴェーバーがそうしなかったのと同じで。
(3) gewisse Teile des Engros- und vor allem der Wertpapierhandel, beide speziell in Form des Börsenhandelsの所は「卸売取引と有価証券取引が、特にこの両方が取引所での取引という形で」、なのに折原訳は「卸売業に加えてとくに有価証券取引の相当部分、取引所取引」と単に羅列にしてしまっています。
(4) spezifisch ländlichen »Produktenhandels«を折原訳は「農村特有の「特産品販売」」としていますが、Produktは英語のproduceと同じで「農産物」のことで「地方に特有の「農産物取引」」ぐらい。
(5) Geldwechselが「貨幣交換」って「両替」という日本語がちゃんとあります。
(6) Staatslieferungenは「国家必需品調達業務」ではなくその反対の「国家への納入業務」です。
(7) Pfandleihgeschäftは「質屋業務」です。折原訳の「抵当貸し業務」は土地などを担保にとっての貸し付けを意味するので不可。
まったく変なマルクス主義語彙を多用する割りには、基本的な経済関係の用語がデタラメです。
原文
Es hätte in der Polemik gegen Sombarts geistvolles Buch die Tatsache nicht ernstlich bestritten werden sollen:daß das Judentum an der Entfaltung des kapitalistischen Wirtschaftssystems in der Neuzeit sehr stark mitbeteiligt gewesen ist. Nur bedarf diese These Sombarts m.E. einer etwas weiteren Präzisierung. Was sind die spezifischen ökonomischen Leistungen des Judentums im Mittelalter und der Neuzeit? Darlehen, vom Pfandleihgeschäft bis zur Finanzierung von Großstaaten, bestimmte Arten des Warenhandels mit sehr starkem Hervortreten des Kleinkram- und Wanderhandels und des spezifisch ländlichen »Produktenhandels«, gewisse Teile des Engros- und vor allem der Wertpapierhandel, beide speziell in Form des Börsenhandels, Geldwechsel und die damit üblicherweise zusammenhängenden Geldüberweisungsgeschäfte, Staatslieferungen, Kriegs- und in sehr hervorragendem Maße Kolonialgründungsfinanzierung, Steuerpacht, (natürlich außer der Pacht verpönter Steuern, wie der an die Römer), Kredit- und Bankgeschäfte und Emissionsfinanzierungen aller Art.
折原訳
ユダヤ教が、近世における資本主義的経済体系の発展に[一要因として、他の諸要因とともに]顕著に協働したという事実は、ゾンバルトの才気に富む著書にたいする論争において、かくも重大視され、論難されなくともよかったであろう。ただ、私見によれば、ゾンバルトのこの命題は、もう少し精確に限定する必要がある。中世および近世におけるユダヤ教に特有の経済的貢献は、どこにあるのか? 抵当貸し業務から大国家への資金融資にいたる金貸し、小規模な小売・行商および農村特有の「特産品販売」に著しく傾斜した、特定種類の商品取引、卸売業に加えてとくに有価証券取引の相当部分、取引所取引・貨幣交換・通常これらと関連する振替送金業務、国家必需品調達業務・戦争資金融資・および相当顕著な程度におよぶ植民地設立への資金融資、徴税請負業務(もとよりローマ人を対象とする徴税請負のように、厳禁されたものは除く)、あらゆる種類の借款および銀行業務、証券発行による融資、などである。
丸山訳
ゾンバルトの才知豊かな書籍[1] に対する論争において、次の事実はあれほど手厳しく論難されるべきものではなかったであろう:つまりユダヤ教が近代においての資本主義的な経済システムの展開において非常に強く関与している、ということである。ただ私見では、ゾンバルトのこのテーゼはいくらかさらなる正確さが必要とされる。中世及び近代においてのユダヤ教の経済的な成果には一体何があるのか?質屋業務から大規模な国家への融資に至るまでの貸金、ある決まった種類の物品販売で、非常に強い程度に小売業と行商、さらに地方に特有の「農産物取引」が突出しているもの、一定の部分の卸売取引と特に有価証券取引、その二つとも特に取引所取引という形で、両替と通常それに関連する金銭振替業務、国家への物資供給、戦争融資と非常に目立つ程度の植民地設立への融資、租税徴収(もちろんローマ人に対する徴税のように厳禁された徴税以外の)、あらゆる種類の信用・銀行業務と証券発行融資がある。
[1] Die Juden und das Wirtschaftsleben(ユダヤ人と経済生活)、1911年のこと。この論文に対しては、ヴェーバーが資本主義に強く影響を与えたものとしてプロテスタンティズムを挙げるのとは違い、ゾンバルトはユダヤ教の影響が大であるとして、激しい論争になった。ヴェーバー以外にもユダヤ人のラビであり学者であったユリウス・グットマン(Julius Guttmann)がテーゼ自体は評価したものの、この論文での史実の間違いや誤解釈・人種差別的性格などを厳しく批判した。
