「中世合名・合資会社成立史」は株式会社の起源を研究したものではない

橋本努氏のHPに、氏が書かれた弘文堂の「現代倫理学事典」における「ウェーバー」の項目の説明に以下の記載があります。
「1889年、ベルリン大学において、近代の株式企業の発生を中世の商事会社に辿り跡付けた論文「中世商事会社の歴史について」によって法学博士号を取得」

この説明は、まったく不適切です。私の日本語訳を読んでいただければ分りますが、「中世合名・合資会社成立史」には株式会社という単語は一度も登場しません。またドイツに多い有限合資会社(GmbH=Gesellschaft mit begrenzten Haftungen)という単語も同じく一度も登場しません。おそらくこうした間違った説明は、
(1)マックス・ヴェーバーはプロ倫で資本主義を推進した原動力を研究した人なのだから、最初の論文も近代的な株式会社の起源を探ったものに違いない、という内容をチェックしない勝手な思い込みによる。
(2)大塚久雄の「株式会社発生史論」との混同。
といった理由からかと思います。

それから今野元氏も「マックス・ヴェーバー ――主体的人間の悲喜劇」にて、この論文を「資本主義の起源を扱った」と説明していますが、この論文に「資本主義」という言葉も登場しません。

そもそもドイツにおいて株式会社は外から入って来た制度であり、一般的には東インド会社などが起源と言われており、中世の合名会社・合資会社との連関は同じく会社であって法人格と特別財産を持つということ以外はあまりありません。なので私は従来からある「中世商事会社史」というタイトルを採用しませんでした。商事会社には株式会社も含まれており、これ自体も誤解を誘因しているからです。
ヴェーバーの論文は、近代と中世を結び付けたものではなく、古代ローマと中世にかけての「ソキエタース」概念の変遷を扱ったものです。

以上のような明らかに間違った解釈は、せめて目次だけでもチェックすれば防げた筈ですが、残念ながら日本のヴェーバー研究のレベルの低さを象徴しています。

ヴィルヘルム・ヘニスの「人間の科学 ――マックス・ヴェーバーとドイツ歴史学派経済学」

ミネルヴァ書房 「マックス・ヴェーバーとその同時代群像」W.J.モムゼン、J.オスターハーメル/W.シュベントカー編著に収録のヴィルヘルム・ヘニス著の「人間の科学 ――マックス・ヴェーバーとドイツ歴史学派経済学」(日本語訳:雀部幸隆)を読了しました。読んだきっかけはこの前の投稿に書いた通りです。
通読して、かなりのインパクトがあった論文です。 ヴェーバーは「ロッシャーとクニース」で、自分を「(国民経済学の)歴史学派の子」としながら、その親にあたる国民経済学者のロッシャーとクニースを手厳しく批判します。その内でロッシャーへの批判は比較的分かりやすいのですが、クニースへの批判は難解で、かつクニースと直接関係無いことを批判しているように私には思え、挙げ句の果ては未完であり、結局良く分らない批判でした。しかし、ヘニスによると、ヴェーバーがやった宗教社会学や「経済と社会」のような著作における方法論は、既にクニースによって主張され、あるいは少なくともヒントが与えられていたものをヴェーバーが発展させたに過ぎない、ということで、これは目から鱗の指摘でした。ヴェーバーは私生活で「息子が父を裁いた」とマリアンネに評された実父への糾弾を行い、それが結局実父の死につながり、さらには自分自身の精神疾患の誘因になった訳ですが、ヴェーバーはある意味学問でも「親を裁く」ということをやっている訳です。(親、といってもクニースはヴェーバーの43歳上で、父親と祖父の間ぐらいの年齢の差になります。)もちろんそれが正当な批判なら問題は無いでしょうが、ヘニスは、ヴェーバーのクニース批判はクニースを無理矢理ヘーゲルの亜流の流出論者と決めつけて論難するというもので、かなり問題が多いと評しています。
ちなみにヴェーバーの方法論で、既にクニースが主張しているものは
(1)人間の学問としての経済学
(2)理解社会学とほとんど同じ人間の内面の把握と理解
(3)宗教の教説が経済に及ぼす影響!
といったもので、勘ぐっていえばヴェーバーのクニース批判は、自分の立ち位置を独自のものであるかに見せるための脚色が入った論難とも言えなくないかもしれません。
ちなみにヴェーバーはハイデルベルク大学通学時にクニースの「国民経済学」の講義を聴講しています。また自身がハイデルベルク大学で国民経済学を教えるようになったのは、それはクニースの後任としてでした。

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実は先日サーバーを新しいマシンにしたのですが、その設定が一通り終った後、パーティションの区切り方が不適であることに気付き、それを修正しようとしたら再起動しなくなり、結局全てを全部入れ直しました。その過程で何故か一回目の移設作業では出なかったエラーが沢山出たため、再構築に時間がかかりました。
この間、アクセスされた方にはお詫び申し上げます。