折原浩先生の「マックス・ヴェーバー研究総括」でもう一つ納得出来ないこと。
P.218以下の「未来予知――「イギリス支配下の平和」の終焉と「印パ紛争」」の箇所で、ヴェーバーが現在に至る「印パ紛争」を、大筋では的確に予知-予測していた、と説明されています。
まず、未来予知というのであれば、ヴェーバーの理論を使ってこれからのインドに何が起きるかを述べるのなら意味があると思います。しかし、過去に既に起きている事象に対して、ヴェーバーがそれを予知していたというのは、単なる後付けのこじつけ的な説明に過ぎないのではないでしょうか。
そもそも、イギリスは1857~58年の「インド大反乱」(昔はセポイの乱と呼ばれていました)の後、それまでの東インド会社を使った間接統治から直接統治に切り替えます。なおかつイギリスはインドの反乱の目を抑えるために、イスラム教徒とヒンドゥー教徒の対立を煽り、1905年にはベンガル地域をイスラム教徒の地域とヒンドゥー教徒の地域に分割しようとすらしており、そういった政策によってイギリスに直接反乱が及ばないようにしたのは周知の事実です。従って何らかの事情でイギリスの統治が無くなれば、イスラム教徒とヒンドゥー教の対立が先鋭化することは、その当時の誰もが予測出来たことであり、特にヴェーバーの理論?に拠る必要は無いと思います。今正確には思い出せませんが、E. M. フォースターの「インドへの道」(1924年)にもそれに類する記述があったように思います。なおついでに言えば、ムガル帝国が支配していた時は、ヒンドゥー教とイスラム教徒は平和裏に共存していました。(イスラム教は現在そう思われているような非寛容的な宗教では決して無く、イベリア半島でも、ムガル帝国でも、またオスマン帝国でも、人頭税さえ払えばキリスト教やユダヤ教、ヒンドゥー教他の信仰を続けることが出来ました。改宗しなければ皆殺し、ということは起きていません。)