20世紀初頭の心理学がどういったものであるかを、江戸川乱歩の「心理試験」(1925年)が良く描写していますので紹介します。(引用元:青空文庫)元々、高砂美樹著、「心理学史はじめの一歩 改訂新版: ルネサンスから現代心理学へ 」の中のコラムで紹介されているものです。当時の心理学がこうした装置を用いて人間の心理の動きを数値やグラフにして調べようとしていたことが良く分ります。
「蕗屋(注:殺人犯)の考によれば、心理試験はその性質によって二つに大別することが出来た。一つは純然たる生理上の反応によるもの、今一つは言葉を通じて行われるものだ。前者は、試験者が犯罪に関聯した様々の質問を発して、被験者の身体上の微細な反応を、適当な装置によって記録し、普通の訊問によっては、到底知ることの出来ない真実を掴もうとする方法だ。それは、人間は、仮令言葉の上で、又は顔面表情の上で嘘をついても、神経そのものの興奮は隠すことが出来ず、それが微細な肉体上の徴候として現われるものだという理論に基くので、その方法としては、例たとえば、Automatograph 等の力を借りて、手の微細な動きを発見する方法。ある手段によって眼球の動き方を確める方法。Pneumograph によって呼吸の深浅遅速を計る方法。Sphygmograph によって脈搏の高低遅速を計る方法。Plethysmograph によって四肢の血量を計る方法。Galvanometer によって掌の微細なる発汗を発見する方法。膝の関節を軽く打って生ずる筋肉の収縮の多少を見る方法、其他これらに類した種々様々の方法がある。」





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A moving coil galvanometer of the type designed by D’Arsonval.
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David GraeberとDavid Wengrowの”The Dawn of Everything”を読了しました。大学時代、マックス・ヴェーバーの社会学を学びながら、平行して文化人類学や考古学・民俗学・民族誌などを学んでいたのは、ヴェーバー他の社会科学の知見を、文化人類学や考古学でその後見つけられた事例によって検証してみたい、というのが大きな意図でした。しかしアカデミックの道には進まなかったので、その路線をずっと続けるということも出来ていませんが、そこに現れたのがこの本で、まさに私がやりたかったことが実現されていました。20世紀から現代まで、文化人類学や考古学で実に様々な人間社会の事例が新しく調査されたり発見されたりしたのですが、その知見を総合して、啓蒙時代から20世紀初頭までの社会科学の主張を見直す、ということをやった人はこれまでおらず、著者2人が10年間に及ぶ私的なディベートを重ねてこの本にまとめたものです。著者2人の最初の動機というのは、「現代の不平等(格差)社会というのはどこから始っているのか」ということでしたが(2人の著者の内、David Graeberは文化人類学者で、2011年のアメリカでのいわゆるウォール街占拠運動で「我々は99%だ。」というスローガンを考えた人です)、色々調べた結果、完全に平等主義の社会というのは、小規模な狩猟採集のグループを除いてはほとんど発見出来ない、ということでした。マルクス主義者の主張する「原始共産制」などは完全なおとぎ話に過ぎないということです。ルソーの社会契約説やホッブスの「万人の万人に対する闘争」も同様です。それから農業革命、といった急速な社会変化もほとんどの社会で見つけることは出来ず、多くの場合、農業は片手間で家庭菜園的に試みられたのが、行きつ戻りつしつつ長い時間をかけて発展して来たということが、多くの事例をベースに検証されています。また農業によって多くの人口を養うことが出来、その結果都市が出来、そこでの管理の必要性から階層社会が生まれた、というのもそうでない事例の方が圧倒的に多いと論じられています。啓蒙時代から19世紀の社会科学はほとんど欧州だけを見て、様々な仮説を作り出しました。マックス・ヴェーバーになると、そこにインドや中国などが加わりますが、それは2次文献・3次文献に依拠するもので最初からある種の偏見や一方的な見方が多く含まれています。今こそ、この本に挙げられている様々な事例を自分達でも再考して、21世紀の新しい社会科学を作り出すべき時に来ていると思います。
このブログのトップページでも使用しているマックス・ヴェーバーのこの写真ですが、これはアマナイメージズという所にお金を払ってこのブログでの使用許諾を得ています。



