数学者岡潔のIdealtypusアプローチ

以下は https://ameblo.jp/vario08/entry-12911987994.html にあった、数学者の広中平祐さんの回想記事ですが、読んでみてヴェーバーの言っている「理念型」の「理想的」な学問への適用とはまさにこういうことなんじゃないかと思いました。

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岡先生は、「広中さん、そんな方法では、問題は解けません。もっともっと難しい問題にしていくべきだ。あなたのような態度じゃ、問題は解けませんよ。」と断言されたのである。「そんな方法」とは、こうである。
私はその時、一番理想的な問題はこれで、これはこういう形で解きたいが、今のところは欲ばり過ぎだから、これこれの条件をつけて、こういう形で解けたらいいと思う。しかしながら、それでも欲をいうように思えるから、もっと具体的な設定をして、これこれの段階までさがって、これを解ければ、ある程度役に立つだろう、そういう風に、問題を理想的な形から下へ下へさげる式で講演したのである。
しかし、その方法では解けないと、岡先生はいう。私は表面には出さなかったが、内心ではムカッとしていた。先生は数々の業績を築かれた偉大な数学者かもしれない。しかしこの「特異点解消」の問題にかけては世界広しといえども、私くらい時間をかけている学者はほとんどいない。また、この問題に関しての業績もいくつかあげているという自負が、私にはあったからだ。だが、何にせよ、偉い先生なのでその場を取りつくろうようにして、私は無言で頭を下げた。
すると岡先生は、こう言われたのである。「問題というものは、あなたのやり方とは逆に、具体的な問題からどんどん抽象していって、最終的に最も理想的な形にすることが大切だ。問題が理想的な姿になれば、自然に解けるはずですよ。」表現はこのとおりではないが、おおむねそういう意味のお言葉だった。
私は「ご忠告ありがとうございます」と頭を下げたが、腹の虫は容易におさまらなかった。正直いって、何を勝手なこといいやがる、という気持ちだった。
しかし、岡先生のその時の言葉は、少なくともこの問題を解く上では、的を射ていたのである。
私は米国に帰ってから、問題に対する考え方を少し変えてみた。理想的な形にしてみたのだ。そして数カ月ほどかけた結果、ついに全面的な解決を見ることができたのである。