ヴェーバーの「宗教社会学」の怪しさ4

今日もヴェーバーへの突っ込みは続きます。(笑)
「政治団体のみでなく、職業上のゲゼルシャフト結成態も、まったく同様に、それぞれの特殊神や特殊聖者を戴いて礼拝する 。」とヴェーバーは書いていて、この内容だと職業団体が先でその後宗教団体になると読めますが、ハインリヒ・ミッタイスもギールケもイタリアの都市でのギルドは、元々特定の聖人を守護聖人として持つ人々の社交団体で、つまりは宗教的な団体形成が先だと書いています。すなわちヴェーバーの論は因果関係を逆にしています。「中世合名合資会社成立史」の時も、家計ゲマインシャフトから合名会社が成立したことを論じるのですが、何故かその家計ゲマインシャフトは全てギルドのメンバーであったという要素がまるっきり無視されています。ヴェーバーの書籍では晩年の講義録を除くと、ちゃんとしたギルド論の部分がすっぽり抜けています。もしかすると宗教は資本主義精神を生み出している反面、ギルドみたいな反資本主義的な制度も作り出している訳で、そこを深く突っ込むと「プロ倫」が土台から崩壊するのではというある種の予感があってギルドを論じるのを避けたとか。(笑)

「宗教社会学」折原浩訳、丸山補訳、R1

折原浩先生が訳されて、このサイトで公開している「宗教社会学」の折原私家版翻訳に対して、私が補訳として手を入れたものが30ページほど出来ましたので、途中段階として公開します。(これで全体の1/10くらい)本来なら私が手を入れた部分を折原浩先生に確認してもらうのが筋ですが、先月で90歳になられたということを考え、非常に負荷のかかる作業の依頼は困難と考え、敢えて独断で公開します。

既にいくつか紹介しているように、ヴェーバーの論理の飛躍ぶり、根拠の不明確さや誤りについてもかなり突っ込んでいます。また折原浩先生の訳注については社会学的な部分にはそれなりに注は付いているものの、宗教に関する、一般の人はまず知らないような事項にまったくといっていいほど訳注を付けておらず、私の方で補完しましたが、ここまでだけでもかなりの時間と労力を要しました。また残念ながら折原浩先生の不適切訳や誤訳も散見され、最初は訳注だけで本文はそのままにしようと思っていましたが、結局本文にも手を入れています。(どこを変えたかは、ちょっとした表記の変更など以外は明記しています。)

宗教関係タームの例:
・ウーゼナーの「瞬間神」
・アメノフィス四世(イクナトン)
・インドにおける装飾旋律にたいする「ラーガ」
・類似療法
・エレウシスの密儀
・ミディアン人
(こういうの訳注無くて全部すぐ分かる人は日本では10万人に1人もいないでしょう。)

また社会学的なワードであっても、Gebietskörperschaftsを「地域団体」と訳していたのには正直な所あきれました。ケルパーシャフトは法人格を持つ団体のことであってドイツ法制史の基礎的タームであり、ヴェーバーの定義する「団体」とはまるで相容れません。それに「地域団体」は普通Gemeindeを連想させます。折原先生に限りませんが、社会学者の法制史知識の欠如には驚きます。ドイツの社会学はギールケの団体法論などの影響を大きく受けているのにもかかわらず。

そもそもこのサイトの「オープン翻訳」はソフトウェアの世界のオープンソースを参考にしたものです。オープンソースの場合は間違いを訂正したり、あるいは新しい機能を付け加えたりした場合はその部分を明記した上で再公開することになっており、そのルールに従っています。

20251001_宗教社会学補訳R1.pdf

なお、この補訳を始める準備として、「ローマ土地制度史」の翻訳作業と同時にこの2年間に写真のような書籍を読んで来ています。ヴェーバーの宗教社会学三部作も再読しています。なので適当にWebで調べたものをそのまま書いている訳ではありません。