日本語訳の第30回目です。Consitutum Ususにおける新しい概念としてcapitaneusという言葉が登場します。今日で言うキャプテン(主宰者、船長、主将等々)の語源となっている言葉のようです。要するに合名会社の「社長」の前段階のものでしょう。
================================================
ソキエタス法的内容
今述べたことは、Consitutum Ususでは実際に起きていることである。Consitutum Ususの中のこれらの制度についての章は、我々がそれについて一般的に入手出来る史料の中ではもっとも浩瀚なものである。―
1.ソキエタス・マリス。
我々はソキエタス・マリスがConsitutum Ususの中で詳細に論じられているのを見出す 5)。特にジェノアにおいて知られていたものが通常のケースとして次のspecies(外観を持った可視物)として見出すことが出来、そのspeciesは”societas inter stantem et in aliquod tassedium euntem”(ソキウス・スタンスとある商業上の航海を行う者との間のソキエタス)と描写されている。それはある輸出業者とあるトラクタトールの組合(Association)であり、ソキウス・スタンスが2/3、トラクタトールが1/3を出資した場合には、利益の分割については半々になる。こういった利益の分割の仕方は、別のケース《コムメンダのこと》では、トラクタトールが利益の1/4(quarta proficui)を取り、これらは通常のやり方(naturalia negotii)であった。
ジェノアにおいては、我々が既に見て来たように、個々のケースにおいて経済的に見た場合、トラクタトールはソキウス・スタンスの単なる従属的器官である場合と、逆にトラクタトールが本来の意味での企業家であり、ソキウス・スタンスは本質において単に出資を通じて参加するだけの資本家であるという場合のどちらかであった。ピサにおいても同様の法文がこの二つのやり方の裏付けとなっていたが、そこではKapitanie(キャプテン)という概念がこの二つの違いを法学的に有効にするために使われていた。
5)Consitutum Ususのc.22のde societate inter extraneos facta p.883 l. c.qqを参照せよ。
法的な区別。Kapitanie(キャプテン)の意味。
Capitaneus 6)とは、―その言葉の意味に適合するのは―次のソキエタスの成員、つまり我々が前述した業務での”Chef”(主宰者)、つまり事実上の企業家と名付けた者である。Consitutum Ususによれば、ソキウス・スタンスとトラクタトールのどちらもが”capitaneus”であることが可能である。誰であれcapitaneusである者は今や当該の事業の全体に対して処分権を持つ。特にcapitaneusではないソキエタスの成員は、自己の判断でその事業を取りやめることは出来ず、その者がソキウス・スタンスである場合には自己の出資した分を取り返すことは出来ないし、またその者がトラクタトールである場合は予定されていた航海を中止することは出来ない。その一方でcapitaneusは、―他のソキエタスの成員に対して、証明することが出来る形での発生損失について補償を行う限りにおいて―当該事業の中止、出資分の返還、航海の中止といったことの決定について権限を与えられていた。実際にこのことが決定的に重要な点であり、その他の違いについては副次的なものに過ぎない。capitaneusはまた、ソキエタス契約の目的という点で見れば、その事業全体の管理者という位置付けになるのであり、他のソキエタスの成員の契約上の権利というものは、その中では個別の資格でしかない。このことの結果として次のような法規上の表現が出て来る。つまりソキウス・スタンスがcapitaneusである場合には、トラクタトールはcapitaneusの許可無しには一回の航海について他の(第三者と)コムメンダ契約を結んでそこから別に自分の収入を得ることは出来なかった。もしトラクタトールがそれに違反してその航海に自分の商品も持ち込んだ場合には、トラクタトールが第三者とのコムメンダ契約で得た全体の利益の内の1/4の取り分については、全てが最初のソキエタスの取り分とされた 7)。逆のケースでトラクタトールがcapitaneusである場合は、次のことは自明である。つまり、そのトラクタトールがその事業に参加することが出来、その事業に必要な人員はそのトラクタトールの望む通りとなり、もし損失が発生した場合でトラクタトールの責任となるのは、その者がその事業によって定められていたトラクタトールの本来の出資金よりも少ない出資金しか出しておらずそれによって損害が発生した場合だけ 8)である。
6)Consitutum Ususのp.884 1.c.を参照せよ。
7)p.893 1.c.の”jus capitanie (“capitanie jure salvo”)においてトラクタトールの、ソキウス・スタンスがcapitaneusの場合の利益取得の権利について詳しく規定されている。
8)p.884の中央部を参照せよ。
一般的に言って、ソキウス・スタンスがcapitaneusとなる特別な取り決めが無かったことにより、法規によればトラクタトールがcapitaneus 9)と成るのが通例であった―その場合にここでもまた先に一般的な説明として論じた次の方向への発展が見られた。つまり、ソキウス・スタンスが通常は資本家として把握され、外国との取引という事業に参加するだけ、という形の発展である。このことはConsitutum Ususにおいてある事業において一人のトラクタトールが多くのソキウス・スタンスと契約を結ぶということが通例であることによって、よりいっそうの頻度で起きることになった。これらの多数の”socii ejusdem hentice”(同じソキエタスに出資しているソキエタスの成員達)とその相互の関係については、とりわけその者達の間での利益と危険の分割については、Consitutum Ususが詳細に規定している。我々は既にこういった関係についてはジェノアでの例を見て来たし、ピアチェンツァにおいても固有のやり方でそうした関係が形成されるのを見て来た。そのピアチェンツァでは我々は特に次のことを確認した。つまり、そこではまだ多数のKommendanten(委任する側=ソキウス・スタンス)が本来の企業家として通用していたということを。その場合はその時々のトラクタトールは、ただその複数のKommendantenの共通の、彼らがビジネスを行う上での道具である器官として位置付けられていた。そうした関係はまたConsitutum Ususにおいても存在することが出来ていていて、それどころかこういうケースは、”societas inter extraneos facta”(親族外の者と結成されたソキエタス)についての章で詳細に扱われている。それからさらに複数のソキウス・スタンスの中の一人がゲゼルシャフトのcapitaneusとなり、トラクタトールはそのcapitaneusに従属し、そのcapitaneusには会計の必要性が生じ、その者は貿易のための航海が終わった後に、ソキエタスを解体して精算する。その際に法規自身がそう規定しているように、ソキウス・スタンスの内の一人がcapitaneusであるということは常に行われていることでは決してなかった。もしトラクタトールがcapitaneusであった場合は、その者は逆にゲゼルシャフトの清算人でなければならなかったし、既に論じて来たように、ソキウス・スタンスの指図することには拘束されなかった―ただ当然のこととして損害が発生した場合にはそれをソキウス・スタンス達に補償する義務を負っていた―、ソキウス・スタンスの側はむしろ彼らの側として、capitaneusであるトラクタトールに一度出資した資金を委任したままにしなければならなかった。その場合でも引き続きソキウス・スタンス達には広範囲の監督権が別に留保されていたし、また彼らが元々企業家であったという意識自体は決して失われてはいなかった。特にトラクタトールによって不正なやり方で譲渡または売却されたソキエタスの財産の悪意の所有者に対抗しての返還請求や利益請求、それ故さらにトラクタトールの第三者に対する処分権の制限についての権能も、ソキウス・スタンス達に認められていた。
9)p. 884 1.c.を参照せよ。
10)p. 839(補遺):”inter socios ejusdem hentice seu societatis maris etc.”(出資を同じくするソキエタスの、またはソキエタス・マリスの成員達の間で);hentica =ἐνθήκη、Einlage(出資)。この語の語源がギリシア語であるということはまたもこの制度が東ローマに由来するということの証拠となる。
11)トラクタトールは特にcapitaneusであるソキウス・スタンスに対して航海からの帰還命令を受ける可能性と航海において果たすべき課題を与えられているという点で拘束されていた。
12)このトラクタトールがcapitaneusであるというケースは、文献史料においては完全な形では記述されていない。ただその存在について、p. 884 1.c.によれば通常のケースであったことは確実と思われる。
13)ソキエタスの成員間の関係の全体については、p. 886 ff. 1.c.を参照せよ。
ソキエタス・マリスの財産法。
我々にとってもっとも中心となる問題は、ここにおいても―まずは:これまで述べたような状況はそこで言及されているソキエタスの財産権とどう折り合っているのか、またゲゼルシャフトの特別財産という考え方をどう解決しているのか?その答えが肯定的なものである場合には、我々はこれらのソキエタスの財産の発展の過程において、合名会社の形成についての基本原理を見出すことが可能であろうか?―実際の所、次のことを確認することが出来る。つまりConsitutum Ususの法文は、ジェノアの法規と同様に、ただよりさらに明確にかつ意識的に、ソキエタスの成員達の出資によって作り出された基金、つまり”hentica”を特別な運命の下に置くという内容の法文を含んでいる。
特別財産。
法規であって” inter socios ejusdem hentice seu societatis maris”(同じソキエタスに出資した者達またはソキエタス・マリスの成員達の間で)とこれらの成員達と(外部の)債権者との間の関係の差異について、Consitutum Ususの中で条項が追加されているものは、これらの規定にこれらの人員グループ分類毎のそれぞれについての、仮にソキエタスが破産した場合の財産の優先権についての注記を付け加えており、その注記の追加がここで 14)番号のより若い補遺として行われていることが特徴的なことである。その内容は我々にとって特別に興味深いものである。
14)p. 839 1.c.を参照せよ。