中世合名会社史ー日本語訳プロジェクト:(1)目次

以下が目次の日本語訳です。
この段階ではほんの試訳ですのでその点ご注意ください。
今後何度も変更される可能性があります。
訳者注は《》で入れています。それ以外に原文にはありませんが補った方が理解しやすいものは()で補っています。
いくつかラテン語などドイツ語外の単語で不明な単語がありますが、現時点は原文のままにしています。
ご意見、誤り等が見つかりましたら、コメントで指摘いただけると助かります。
Gemeinschaftは現時点ではすべて「ゲマインシャフト」として訳しています。
これに対しGesellschaftは「ゲゼルシャフト」とした場合と、「会社」とした場合があります。これらについての日本語訳は翻訳が一通りすべて終わってから再度慎重に見直したいと思います。
また論文のタイトルは、今のところ仮で「中世合名会社史」としておきます。
「中世商事会社史」は何度か書いたように
(1)現在の日本の法律では「商事会社」という法概念が無くなっている。(今の用語では単なる会社のこと。)
(2)「商事」という日本語は「商社」をも意味する。
(3)ドイツ語のHandelsgesellschaftは合名会社、合資会社、GmBH、株式会社すべてを含む概念だが、ヴェーバーが最初の2つしかこの論文では扱っていない。
の3つの理由から良くないと思っています。最初のタイトルでは「合名会社の歴史」とはっきり限定していた訳ですから(”Entwickelung des Solidarhaftprinzips und des Sondervermögens der offenen Handelsgesellschaft aus den Haushalts- und Gewerbengemeinschaften in den italianischen Städten.”{「イタリアの諸都市における合名会社の連帯責任原則と共有財産の家計ゲマインシャフト及び家業ゲマインシャフトからの発展」})、「中世合名会社史」を当面使いたいと思います。全部一通り訳し終えてから決めます。ちなみに英訳は「中世 Commercial Partnership 史」です。(英語のCommercial Partnershipは「商事組合」と訳されていたり、「合名会社」と訳されていたりします。「合名会社」は元々欧州の大陸法での概念であり、英米法ではそのものずばりの対応する単語がありません。)
なお、Lutz Kaelberの英訳については、十分に参考にさせてもらいますが、あくまでここでの日本語訳はドイツ語からの翻訳であり、英訳からの重訳ではないことをお断りしておきます。
元のドイツ語へのリンク
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中世の合名会社の歴史について
南欧の史料に基づいて

枢密法律顧問官のゴルトシュミット教授に感謝と畏敬の念をもって献呈す。

内容目次

序文 142
Ⅰ. ローマ法と今日の法。研究の工程。 144

ソキエタスと合名会社 144
ローマ法におけるソキエタス 145
近代法における合名会社 147
ローマ法の根本原則の変遷を示しているという条項について:
1) D.63 §5 pro socio (あるソキエタスの成員の他の成員に対しての{権利}) 152
2) D.44 §1 de aed[ilicio] edicto (アエディリス{按察官}の布告について) 152
3) Argentarii (銀行家) 153
4) マラカ《スペイン南岸のフェニキアの植民市で後にローマの同盟市》法 C.65 153
ローマ法についての考察の結果としての否定的な結論 155
研究の工程。経済的見地と法的見地の関係 155

Ⅱ. 海上取引法における諸ソキエタス

1) コムメンダと海上取引における諸要求 157
西ゴート法典と海上取引 158
コムメンダの経済上の諸原則 159
コムメンダのソキエタス的性格 163
コムメンダへの参加者の経済的な位置付け 163
2) ソキエタス・マリス(海のソキエタス) 165
ソキエタス・マリスの法的性格 166
経済的な意味 168
3) コムメンダ関係の地理的領域 170
スペイン 170
シチリア、サルディーニャ 172
トラーニ、アンコラ 172
アマルフィ 172
ピサ 173
ヴェネツィア 173
ジェノヴァ 174
4) 様々な海上取引関連ソキエタスの財産権法上の扱い 177
ソキエタスの基金 177
固有財産形成への萌芽 179
ソキエタスの責務 180
ソキエタスの成果 181
5) 陸上コムメンダと合資会社 182
陸上コムメンダ 182
合資会社の萌芽、ピアチェンツァ 184
陸上コムメンダの意味 188

Ⅲ. 家族と労働ゲマインシャフト

生計を共にする家族経済 190
家族経済の財産法上の帰結 191
諸ゲマインシャフト関係の法的基礎。家計ゲマインシャフト 195
財産法的発展の行程。構成員の分け前への権利。 196
家族外での家計ゲマインシャフト 201
手工業者のソキエタス 201
これらのゲマインシャフトの共通の土台 203
共通の特質 205
1) 男性socii(ソキエタスの構成員)への制限 205
2) 不動産の除外 206
財産関係における変化 206
第三者に対する法的関係。血縁を基礎とする責任関係 208
家計ゲマインシャフトを基礎とする責任関係 210
ゲマインシャフトにおける責任についての二重の意味 211
1) 共有財産についての責任 211
2) 構成員の個人責任 213
家の構成員の責任の源泉と発展 216
諸法規における家族ゲマインシャフトと労働ゲマインシャフト。序説 218
スペイン 218
ヴェネツィア 222
その他のイタリアの地方における法規 226
非独立構成員の責任 229
家ゲマインシャフトにおける相続時の財産分与義務 232
個人債務とゲマインシャフトの債務 237
家族以外での連帯責任。共通のstacio(業務、仕事) 237
個人債務と業務上債務 238
ゲゼルシャフトにおける共有財産 240
家業ゲゼルシャフトと手工業ゲゼルシャフト 245
合名会社の特質とソキエタス契約 247
出典 250

Ⅳ. ピサ。Constitutum Usus 《1161年に編纂されたピサにおける法令集》におけるソキエタス法 253

Constitutum Usus 253
Constitutum Usus の領域 255
Constitutum Usus の条文の性質 257
ソキエタス法的な内容:
Ⅰ. ソキエタス・マリス 257f
法的な区別。船長の意味 258
ソキエタス・マリスの財産法 261
固有財産 261
1) 個人債権者との関係 262
2) ソキエタス構成員の会社資本金への拠出 262
3) 会社の債権者への拠出 263
4) 会社財産の範囲 263
ここまでの成果。合資会社 264
Ⅱ. 固有財産の無いソキエタス。Dare ad portandum in compagniam 265
Ⅲ. 固定配当金を持ったソキエタス。Dare ad proficuum maris 267
ソキエタス法に対する高利原理の意義 269
Ⅳ. 海上ソキエタスと家族ゲマインシャフト 272
海上ソキエタスの家族連合における起源についての推定 273
家族ゲマインシャフトの特性 274
ピサにおける継承された遺産ゲマインシャフト 276
Vita communis 《共通の生、同じゲマインシャフトの中で生きる人々》:
1) 前提条件 277
2) その影響 278
Societas omnium bonorum 《ソキエタスの全ての財産が現在と将来に渡って共有されるソキエタス》 280
ピサにおける連帯責任原理 280
Ⅴ. Compagna de terra 《陸上のCompagna=イタリアでソキエタスとコムメンダから発展した会社の原型》21
合名会社と合資会社の原理上の違い 283
ソキエタスに関する文献類 284
成果 286

Ⅴ. フィレンツェ 287

フィレンツェにおける産業上の財産 287
Ⅰ. 成文化された資料:発展段階 288
A. 会社の連帯責任についての血縁関係の意味 289
家族とソキエタスの類似性について 291
1) 仲裁裁判 291
2) 責任と相続分与義務 292
3) ソキエタス構成員の個人的関係 293
4) 家の息子と雇用人 294
家族ゲマインシャフトのソキエタス的性格とソキエタスの家族的性格 295
B. ソキエタスの財産法:ソキエタスの債務と個人債務
ソキエタスの債務の徴表:
1) 会計簿への記帳 296
2) ソキエタスの名前での契約
ソキエタスの財産に対する差し押さえからの個人債務者の除斥 300
Ⅱ. 諸文献:アルベルティとペルッツィにおける商業簿記 302
家計ゲマインシャフト 302
ゲマインシャフトの土台としてのソキエタス契約 305
資本金と各ソキエタス構成員の出資 305
各ソキエタス構成員のゲマインシャフトの外部での固有財産:
1) 不動産 306
2) 個人の動産 306
1336年のアルベルティ家の相続協定 308
成果 311

Ⅳ. 法的文献、結論 312

法的文献とそのソキエタスへの関係 312
1) 合資会社関係 313
2) 合名会社:
a. 固有財産 315
b. 連帯責任。強制的な仮定と代表者(Institorat)の仮定 317
連帯責任の実質的な根本原理との関係 320
国際的な発展についての法学研究の成果。ソキエタス会社。 323
ジェノヴァのロタにおける諸決定とジェノヴァの1588/9年法。発展の結着 326
結論。得られた成果の法教義学的利用の可能性 330

文献一覧表 333

“a potiori”という表現

ヴェーバーの論考を読んでて時々出くわすのが、”a potiori”というラテン語です。
“a priori”(先天的に)や”a posteriori”(後天的に)は非常に良く使われていますが、”a potiori”は私はヴェーバー以外ではお目に掛かったことが無いです。学生時代に池田先生という当時ラテン語を習っていた先生に聞いてみましたが、その先生も見たことが無いと言っていました。potiorは比較級で「より強力な」という意味なので、意味的には「より重要なものから、より目立つものから、より多くの数のものから」と言った意味になります。大体において、論文で何かを論ずる場合は重要なものから論じるのはごく当たり前のことで、こんな表現を使う必要はないと思うのですが、「中世合名会社史」にもしっかり登場しており、ヴェーバーの著作にはその生涯を通じて出て来るので、知っておいて損は無いと思います。
ちなみに昔は辞書等にはあまり出ていませんでしたが(例外的にDudenの外来語辞書には”Vom meistens her”という説明があったように記憶します)、今ググったらWikitionaryというオンライン辞書にちゃんと説明がありました。

Inhalt(目次)(ドイツ語)

まずは、Inhaltという目次部のドイツ語です。テキストは”Max Weber im Kontext”のCD-ROMからではなく、モーア・ジーベックの全集版をABBYY Fine Readerというドイツ語対応のOCRソフトでテキスト化しました。(OCRはかなり精度が高いですが、それでもいくつか誤認識していて、訂正が漏れている可能性があります。)
なお、ページ数はオリジナルの書籍(現在ファクシミリ版で入手出来るようです)のではなく、この全集版のページ数です。
なお、当然の方針として著作権のある全集版独自の注釈(原注ではなく)は除いています。
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Zur Geschichte der Handelsgesellschaften im Mittelalter.
Nach südeuropäischen Quellen.

In dankbarer Verehrung dem
Herrn Geheimen Justizrat
Professor Dr. Goldschmidt zugeeignet.

Inhalt.
Seite
Vorbemerkung…………………………………………………………………….. 142
I. Römisches und heutiges Recht. Gang der Untersuchung..………..144

Societas und offene Handelsgesellschaft 144. – Römisches Recht
der societas 145. – Modernes Recht der offenen Handelsgesell-
schaft 147. – Angebliche Ansätze zur Wandlung der römisch-recht-
lichen Grundsätze: 1) D.63 §5 pro socio 152. – 2)D.44 §1 de
aed[ilicio] edicto 152. – 3) Argentarii 153. – 4) lex Malacitana c. 65
153. – Negatives Ergebnis für das römische Recht 155. – Gang der
Untersuchung. Verhältnis der wirtschaftlichen und rechtlichen Ge-
sichtspunkte 155.

II. Die seehandelsrechtlichen Societäten……………………………………. 157

l) Die Kommenda und die Bedürfnisse des Seehandels 157. – Die
lex Wisigothorum und der Seehandel 158.-Wirtschaftliche Grund-
lagen der Kommenda 159. – Societätscharakter der Kommenda
163.-Wirtschaftliche Stellung der Parteien bei der Kommenda 163.
– 2) Die societas maris 165. – Rechtlicher Charakter der societas
maris 166. Wirtschaftliche Bedeutung 168. – 3) Geographisches
Gebiet der Kommendaverhältnisse 170. – Spanien 170. – Sizilien,
Sardinien 172.-Trani. Ancona 172.-Amalfi 172.-Pisa 173.-Vene-
dig 173. – Genua 174. – 4) Vermögensrecht der Seesocietäten 177. –
Der Societätsfonds 177. – Anfänge einer Sondervermögensbildung
179. – Societätsobiigationen 180. – Ergebnis 181. – 5) Die Land-
kommenda und die Kommanditen 182. – Die Landkommenda 182.
– Anfänge der Kommandite, Piacenza 184. Bedeutung der Land-
kommenda 188.

III. Die Familien-und Arbeitsgemeinschaften ……………………………… 190

Die gemeinsame Familienwirtschaft 190. Vermögensrechtliche
Folgen der Familienwirtschaft. Gütergemeinschaft 191. Juristische
Grundlage des Gemeinschaftsverhältnisses. Haushaltsgemeinschaft
195. – Gang der vermögensrechtlichen Entwickelung. Anteilsrechte
der Konsorten 196. – Haushaltsgemeinschaften außerhalb der Fa-
milie 201. – Handwerkersocietäten 201. – Gemeinsame Grundlagen
dieser Gemeinschaften 203. – Gemeinsame Eigentümlichkeiten
205. – 1) Beschränkung auf männliche socii 205. – 2) Ausschluß der
Immobilien 206. – Wandlungen in den Vermögensverhältnissen 206.
– Rechtsverhältnis gegen dritte. Haftungsverhältnisse auf ver-
wandtschaftlicher Grundlage 208. – Haftungsverhältnisse auf
Grundlage der Haushaltsgemeinschaft 210. – Doppelte Bedeutung
der Haftung der Gemeinschaft 211. – 1) Haftung des gemeinsamen
Vermögens 211. – 2) Persönliche Haftung der Genossen 213. – Ur-
sprung und Entwickelung der Haftung der Hausgenossen 216. –
Die Familien- und Arbeitsgemeinschaften in den Statuten. Vorbe-
merkungen 218. – Spanien 218. – Venedig 222. – Die übrigen Kom-
munalstatuten Italiens 226. – Haftung der unselbständigen Genos-
sen 229. – Die Abschichtungspflicht bei den Familiengemeinschaf-
ten 232. – Privat- und Gemeinschaftsschulden 237. – Solidarhaftung
außerhalb der Familie. Gemeinsame stacio 237. – Privat- und Ge-
schäftsschulden 238. – Ge-sellschaftliches Sondervermögen 240. –
Gewerbegesellschaften und Handelsgesellschaften 245. Merkma-
le der offenen Gesellschaften und der Societätskontrakte. Firma
247. – Urkunden 250.

IV. Pisa. Das Societätsrecht des Constitutum Usus………………………. 253

Das Constitutum Usus 253. – Gebiet des Usus 255. – Natur der
Rechtssätze des Usus 257 – Societiitsrechtlicher Inhalt: <1. Die Socie-
tas maris1257 f.- Rechtliche Differenzierung. Bedeutung der Kapi-
tanie 258. – Vermögensrecht der societas maris 261. – Sonderver-
mögen 261. – 1) Verhältnis zu den Privatgläubigern 262. – 2) Stel-
lung der socii zum Gesellschaftsfonds 262. – 3) Stellung zu den Ge-
sellschaftsgläubigern 263. – 4) Umfang des Gesellschaftsvermögens
263. – Ergebnis. Kommanditgesellschaft. 264. – II. Societiit ohne
Sondervermögen. Dare ad portandum in compagniam 265. –
III. Societiit mit fixierter Dividende. Dare ad proficuum maris”
267. – Bedeutung der Wucherdoktrin für das Societätsrecht 269. –
IV. Die societas maris und die Familiengemeinschaft 272. – Angebli-
cher Ursprung der societas maris aus Familienassociationen 273. –
Natur der Familiengemeinschaft 274. – Die fortgesetzte Erbenge-
meinschaft in Pisa 276. – Vita communis: 1) Voraussetzungen 277.-
2) Wirkungen 278. – Societas omnium bonorum 280. – Das Solidar-
haftprinzip in Pisa 280. – V. Die Compagnia de terra 281. – Ver-
schiedenheit der Grundlagen der Kommanditen von der offenen
Gesellschaft 283. – Societätsurkunden 284. – Ergebnis 286.

V. Florenz……………………………………………………………………………….. 287

Industrielle Vermögen in Florenz 287. – I. Statutarisches Material:
Gang der Entwickelung 288. – A. Bedeutung der Verwandtschaft
für die gesellschaftliche Solidarhaft 289. – Analogien der Familie
mit den Societäten 291. – 1) Schiedsgerichte 291. – 2) Haftung und
Abschichtungspflicht 292. – 3) Persönliche Verhältnisse des socius
293. – 4) Haussohn und Kommis 294. – Societätscharakter der Fa-
miliengemeinschaft und Familiencharakter der Societät 295. –
B. Vermögensrecht der Societäten: Societätsschulden und Privat-
schulden 295. – Merkmale der Societätsschulden: 1) Eintragung in
die Bücher 296. – 2) Kontrahieren namens der Societät 297. – Aus-
schluß der Privatgläubiger vom Zugriff auf das Societätsvermögen
300. – II. Urkundliches Material. Handcisbücher der Alberti und
Peruzzi 302. – Haushaltsgemeinschaft 302. – Societätsverträge als
Grundlage der Gemeinschaft 305. – Grundkapital und Einlage des
socius 305. Sondervermögen des socius außerhalb der Gemein-
schaft: 1) Immobiliarvermögen 306. – 2) Mobiles Privatvermögen
306. – Der Erbrezeß der Alberti von 1336 308. – Ergebnis 311.

VI. Die juristische Litteratur. Schluß……………………………………………. 312

Die juristische Litteratur und ihr Verhältnis zu den Societäten 312.
– 1) Kommanditverhältnisse 313. – 2) Offene Handelsgesellschaft:
a. Sondervermögen 315. – b. Solidarhaftung. Mandats- und Instito-
ratspräsumtion 317. – Verhältnis zu den wirklichen Grundlagen
der Solidarhaftung 320. – Ergebnisse der Arbeit der Jurisprudenz
für die internationale Entwickelung. Societätsfirma 323. – Die De-
zisionen der Rota von Genua und die genuesischen Statuten von
1588/9. Abschluß der Entwickelung 326. – Schluß. Möglichkeit dog-
matischer Verwertung der gewonnenen Ergebnisse 330.

Quellenübersicht ……………………………………………. 333

「中世合名会社史」ドイツ語原典通読

「中世合名会社史」のドイツ語原典の通読を完了しました。といっても1日15分ずつぐらい、ドイツ語のリハビリを兼ねて最初から最後まで音読したというだけで、意味をきちんと取りながら読んだ訳ではありません。英訳の通読に続けて、果たして日本語訳が可能か、という見極めが主目的ですが、英訳と同様、まあ部分的には苦労する箇所もあるかもしれませんが、まずは問題無いだろうと判断しました。確かにドイツ語の中にラテン語句が取り込まれた文章は分かりにくいのですが、後年のヴェーバーの文章に比べれば、錯綜している感じが少ないです。やはり博士号論文ということで、他人の審査を受ける論文であり、まずは読む人に理解してもらわなければならない、という事が大きいと思います。それから、ラテン語が崩れたイタリア語のなりかかりやスペイン語のなりかかりというような文章がかなり登場しますが、それでもラテン語はラテン語という感じなので、まったく理解出来ないとは思いません。
これからいよいよ本格的な翻訳作業に入り、少しずつ出来たものをこの場にアップして行きたいと思います。なお、テキストの元は、“Max Weber im Kontext”のCD-ROMから取りますが、その都度モーア・ジーベックの全集版と比較してチェックします。「経済と社会」のような原稿しかないものと違い、きちんと書籍として出版されたものなので、おそらく大きな異同は無いだろうと思います。

ローマ法のSocietasについて面白い文献

ローマ法のSocietasは今日の用語だと「組合」と訳すしかないのでしょうが、それについて調べていて、面白い文献を見つけました。
ミュンヘン大学法学部教授のゴッドフリード・シーマンの「商法としてのローマ法」です。(日本語です。)
その冒頭にプルターク英雄伝からの引用があって、あのマルクス・カトー(大カトー、キケロの「老年について」の主人公の)が海上貿易を営む人にお金を貸し付けていて、金を借りたい大勢の人に組合契約を結ぶことを勧めた、というものです。
大カトーが金貸しをしていたというのはちょっとショックですが、ローマでの組合(Societas)が海上貿易のために使われていたというのも驚きです。というのも中世のイタリア諸都市でCommendaが生まれるのはまさに地中海での海上貿易のためだからです。まだこの論文はじっくり読んでいませんが、かなり参考になりそうです。

1989年現在のドイツ商法における合名会社と合資会社

山田晟著、「ドイツ法概論III 商法・労働法・経済法・無体財産権」(第3版)、1989年9月、有斐閣、より、1989年現在のドイツの商法における合名会社と合資会社の説明を参考までに簡単にまとめておきます。ヴェーバーの時代、そして2019年現在でこれらの規定がどう違っているのかは未確認ですが、おそらくは大きな違いはないと思います。

 

1.合名会社 Die offene Handelsgesellschaft
・共同の商号(Firma)のもとに完全商人として商業を営むことを目的とし、かつ各社員が連帯無限責任を負担する会社である。
・商法に特則のないかぎり民法の組合に関する規定が準用される。
・(ドイツ法では)法人ではないが(日本では法人とされる)、共同の商号のもとに商業が営まれ、商号のもとに権利を取得し、義務を負担し、土地に対する所有権その他の物権を取得し、かつ訴訟能力を有する。
・故に民法の組合よりも統一体としての性質が顕著で、法人に近い。
・商号には社員の氏名の一部と会社の存在をしめす文字または総社員の氏名を含まなければならない。
・社員間の契約(定款)によって成立するが、第三者に対しては商業登記簿への登記が必要。

2.合資会社 Die Kommanditgesellschaft
・(Moritz記)Kommanditは動詞kommandierenの名詞形で、命令する、指揮する、転属させる、の意味。語形からみて、commendaの意味が含まれている可能性が高いと思われる。
・合名会社と同じく共同の商号のもとに商業を営むことを目的とするが、無限責任以外に、有限責任社員(自己の出資の範囲を上限として限定した責任を負う社員)を有する点が合名会社との違い。
・特則がない限りは合名会社の規定が準用される。
・有限責任社員は会社を代表する権限を有しない。
・無限責任社員が個人ではなく有限会社の場合は、有限合資会社(GmbH)となる。

「中世合名会社史」のタイトルへの全集版の注釈

“Zur Geshichite der Handelsgesellschaften im  Mittelalter. Nach südeuropäischen Quellen”という、「中世合名会社史」のタイトルへ付いている全集版の注を記しておきます。

Entwickelung des Solidarhaftprinzips und des Sondervermögens der offenen Handelsgesellschaft aus den Haushalts- und Gewerbengemeinschaften in den italianischen Städten.

訳すと、「イタリアの諸都市における合名会社の連帯責任原則と特別財産の家計ゲマインシャフト及び家業ゲマインシャフトからの発展」
になります。おそらく内容梗概のようなものに記載された副題みたいなものではないかと思います。(2019年8月29日追記:ヴェーバーの書誌情報を確認した所、副題ではなく、最初の出版時のタイトルでした。同じ1989年に別の所から出版された時に現在のタイトルに変更されています。)英訳を読んだ印象ではまさしくそういう内容でした。
「合資会社」(Kommanditgesellschaft)の話も出てくるので(commendaは合資会社の原初形態と位置付けられます)、「商事会社史」もまんざら間違いではないのかな、と思うようになりました。しかし、現代のドイツでHandelsgesellschaftというと、合名会社、合資会社の人的会社と有限会社(GmbH)と株式会社全部を含みますので、そういう意味では「合名会社史」の方がやはりいいかと思います。この副題らしきものも明確に「合名会社の発展史」と言っていますし。

中世合名会社史の英訳1回目読了

中世合名会社史の英訳、取り敢えず1回通して読みました。といっても私の日課での英語の学習のTimeやNews Weekなどの雑誌を20分読んでいる中で、10分をこの英訳に当てたのであり、毎日10分で2ヵ月弱かかりました。
最初の通し読みの最大の目的は、果たしてこの論考を本当に日本語訳出来るのかどうか、という見極めでした。その結果としては、時間はかかるかもしれないが、十分可能である、でした。確かに文中にラテン語ないしは半分イタリア語化したラテン語などが登場します。しかしそのほぼ全てに英訳が付けられていますので、いくらなんでもそれが正しいかどうかぐらいの判断は私のラテン語力・イタリア語力でも出来ると思います。また英訳も良くこなれていて、更にはヴェーバーの論述も後年のものほどは錯綜していない感じでした。
ちょっと面白かったのは、結論の所で、英語だとsociation、ドイツ語だとVergesellschaftungという単語が登場することです。つまり「理解社会学のカテゴリー」風に言えば「ゲゼルシャフト関係形成」ということになります。つまり、合名会社(無限責任)、合資会社(無限責任+有限責任)といった団体がどのように形成され法的な裏付けが与えられるかが主題な訳で、ヴェーバーの関心事というのはある意味最初の論文から一貫しているのだなと思いました。
ちなみに余談として、日本語で「合名会社」となっている意味は、大陸法などでは文字通り合名会社の会社名は、無限責任社員の「名前を合わせて=合名」会社名とすることが規定されていたということです。今私が使っている西洋剃刀で”Giesen & Forsthoff”というのがありますが、これは元々GiesenさんとForsthoffさんの合名会社だったのかなと想像します。他にもこのパターンの&が間に入る会社名は多数あります。
次はドイツ語版オリジナル(パウル・ジーベックの全集版)の通し読みに入ります。

ヴェーバーが何故合名会社の法概念の成立を研究したかについて私考

「中世合名会社史」については、現在英訳を読書中です。それが終わったら今度はドイツ語原典に一通り目を通します。
その前に、以前別の所で書いたものを再度記載しておきます。何故かというと、ヴェーバーの最初の論文が何故合名会社の(法的な取扱いの)歴史なのかということの一つの答えになると思うからです。
「ヴェーバーの社会学を理解する上で重要なのは、この決疑論の部分もそうですが、やはり原点は法学からだということです。ヴェーバーより25年若いドイツの法制史家のハインリヒ・ミッタイス(ヴェーバーの先輩の法制史家でRentenkaufの概念を古代ギリシアの事例を分析するのに適用したルートヴィヒ・ミッタイスの息子)は、「ドイツ私法概説」の中でこう書いています。「人間の団体に関する理論は、ドイツの法律学の最も重要な部分である。諸国民の社会的・文化的・政治的生活は団体の中でおこなわれ、団体は国家とその部分団体において頂点に達する。」「ローマ法は個人法の領域で、ドイツ法は社会法の領域で、その不滅の功績をあげたのである。」(創文社、世良晃志郎・廣中俊雄共訳、1961年初版、P.82)ヴェーバーの社会学はこうしたドイツ法学の伝統と切り離して考えることは出来ないと思います。」
古代ローマにおいても色々な団体は存在しましたが、ローマ法をそれらを法的に正当なものとして認めるのに消極的であり、近代法のような例えば「法人」のような自然人と同等に取り扱われる団体の法概念を作り出すことがなく、ほぼsocietasのみに留まっていました。まだ全部読んでもいない論文の要旨を勝手に語るのは問題かもしれませんが、要は中世の北イタリアにおいて、commendaやsocietas marisのような形の連帯責任を負う団体が登場し、その登場の経緯とそれに対してどのような法概念が与えられるようになったのか、ということがこの論文の本筋ではないのかなと思います。

「ローマ土地制度史 国法と私法への意味付けにおいて」英訳

まだ「中世合名会社史」の翻訳の準備の段階ですが、そちらがもし何とか終了した場合は、ヴェーバーの主要著作で日本語訳が出ていないのは、「Die römische Agrargeschichte  in ihrer Bedeutung für das Staats- und Privatrecht (1891)「ローマ土地制度史 国法と私法への意味付けにおいて」だけになります。例によってこれも英訳は2008年に、Richard I. Frankによるものが既に出ています。訳者は古典語とローマ史の専門家のようで、社会学者ではありません。日本ではヴェーバーというと宗教社会学の方を取り上げる人が多いように思いますが、私としてはむしろ経済史のジャンルでの功績を忘れて欲しくないです。なお、将来これも翻訳する可能性を考えモーア・ジーベックの全集版も入手しましたが、驚くべき事に版元では既に欠本していて、Amazon.deのUsedで何とか買うことが出来ました。私からすると、ラテン語の知識がより求められるのは、「中世合名会社史」よりむしろこちらの方ではないかと思います。