「合手」について

「中世合名会社史」の今訳している所で、「合手」という概念が出てきます。この言葉は一般にはあまり知られていないと思いますので、私なりに調べたことをお知らせします。
ドイツ民法に、共同所有の概念として共有(Miteigentum)、合有(Eigentum zur gesamten Hand)、総有(Gesamteigentum)の3種類があります。(ドイツ民法をベースに作られた日本の民法では、3つの概念の明確な区別の規定はありませんが、一部の「共有」の表現が同様の概念を包含しているとされています。)

「共有」はローマ法に由来するもので、今日でも一般的な共同所有の形態で、
(1)各共有者が自分の持ち分を自由に処分する権利を保持する。
(2)各共有者が共有物についてそれぞれの持分に応じた分割請求の自由を持つ。
というのが特徴です。

これにたいし、「合有」は、ここに「合手」(Gesamthand)が出て来ます。共有がローマ法に由来するのに対し、合有はゲルマン法に由来するものであるという説が、19世紀のギールケなどの歴史学派のゲルマニステンにより主張されました。そうした歴史的な起源にもかかわらず、今日でも組合、夫婦財産共同性、共同相続関係の場合に使われている概念です。特徴は、共有される物が、全体が各人に帰属しているのと同時に、残りの「合手者」全員に帰属していて各人の持分が明確になっていないことです。構成員の共同関係が存続している間は、各構成員は個別に自分の持分に相当するであろう分を自由に処分することは出来ません。共同関係を解消する際に初めて潜在的に存在していた「持分」が決定されて各自に配分され、それぞれでの自由な処分が可能になります。「合手=手を合わせる」という概念は、本来はドイツの封建制度において、ある亡くなった封臣が持っていた領地を、その封臣の息子達が領主の下にその領地を共同で相続することを認めてもらうために訪れた場合、領主は再授封の儀式としてその息子達がお互いの手を重ねているのを自分の両手で包むようにします。(両手を差し出すのは武器を持つ手を領主に委ねるという意味です。)

(一緒になった手=Gesamthand、左の絵はザクセンシュピーゲルの挿絵に登場する合手のシーン。)これによって、封臣の息子達は死んだ父親に代わってその領主に忠誠を誓い、領主はその忠誠の代償に改めて息子達に土地を与えます。

最後の「総有」は、各構成員は共有物に対して利用・収益権だけを持ち、管理権は代表者のみが行使するという形態で、各構成員の持分請求はありません。 いわゆる山林などの入会権や、ドイツ民法54条における権利能力なき社団(登記がまだ行われていない会社など)がこれに該当します。

参考文献
ハインリッヒ・ミッタイス、世良晃志郎・広中俊雄 訳、創文社、1961年、「ドイツ私法概説」P.165他
高津 春久、「封建時代の主君と家臣の付き合い方 : 『レーエン法訴訟法書』が教えるもの」、ドイツ文學研究 (1995)、 40: 1-35

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA