折原浩訳の問題点(168)

今回は新しいパターンで、おそらくはドイツ語は正しく理解しているのに、それを日本語にする時に不適切な誤解を招くものにしてしまっている例。
「最終的には自国の権力保有者も、祭司は承認して」と書くと、多くの人は祭司が権力者を承認した、と解釈してしまいますが、そんな筈はありません。というか元は受動態で、「外国の支配者や自国の権力者によって承認された祭司達」です。それを能動態に変え、本人は「祭司「は」」承認して、のつもりなんでしょうが、そもそも他に承認しなかったものがいたなどとも全く書かれていないために、完全におかしな日本語です。
それから「[祭司の]経験とも、結びついて、」の「経験」も原文にはありません。

原文
Und die Domestikation der Massen, welche sowohl Fremdherrschaften (so zuerst systematisch die Perser) wie schließlich auch die eigenen heimischen Gewalthaber den von ihnen anerkannten Priestern zuweisen, gibt, verbunden mit der Eigenart ihrer persönlichen unkriegerischen Tätigkeit und der Erfahrung von der überall besonders intensiven Wirkung religiöser Motive auf Frauen, mit zunehmender Popularisierung der Religion zunehmende Gründe, jene wesentlich femininen Tugenden der Beherrschten als spezifisch religiös zu werten.

折原訳
外国の支配者 (体系的には、まずもってペルシア人) も、最終的には自国の権力保有者も、祭司は承認して[その地位と支配権は保全し]、大衆の馴致(ドメスティカティオン)を指示する。そして、この大衆の馴致[という役柄]が、[一方では]祭司自身の非戦士的な活動の特性とも、[他方では]宗教的諸動機がとりわけ婦人たちに際立って顕著な作用をおよすという[祭司の]経験とも、結びついて、祭司に、上記のとおり本質上女性的な被支配者の徳目を、宗教に特有の徳性として評価する動機を与え、この動機が、宗教の大衆化とともに、ますます強まるのである。

丸山訳
大衆の家畜化を、外国の支配者(つまりまずは組織的には古代ペルシア人[1])と同様に最終的にはまたその民族自身の権力者達もまた、その者達によって承認された祭司達に割当て、そしてそういった家畜化は、祭司達の個人として戦士的ではない活動と、至る所で特別に効果的な女性への宗教的動機の働きかけと結び付いて、その宗教が次第に一般化して行くに連れて、被支配者のそういった本質的に女性的な諸徳性を特別に宗教的に評価する、次第に強まっていく正当化の理由付けも与えるのである。

[1] 古代ペルシアのアケメネス朝のキュロス2世は、バビロン捕囚にあったユダヤ人を解放し、また寛容な統治でユダヤ人の信仰の保持を許した。

折原浩訳の問題点(167)

まず折原訳は、um so + 比較級、als A、als B (AとBの場合はそれだけいっそう~になる)を正しく訳しておらず、「つぎの事情から」と単純な因果関係に訳している間違い。
また、 der Unterwerfung unter die Fügung des ethischen Gottes und der Priester selbst の所のFügungは「服従」と「摂理」の意味がありますが、「摂理」とするとPriesterにもかかるので「祭司達自身の摂理」となりおかしい。なのでここは神と祭司自身に「服従し屈服すること」と訳すのが自然です。「祭司達自身が定めるところ」は意味不明です。
さらには「不正にたいする弱腰の譲歩と寛容」も変。「不正に対しての好意的な許容と寛大さ」です。

原文
Die Priesterschaft mußte die spezifischen Tugenden dieser Schichten um so exklusiver rezipieren, als diese: Einfachheit, geduldiges Sichschicken in die Not, demütige Hinnahme der gegebenen Autorität, freundliches Verzeihen und Nachgiebigkeit gegenüber dem Unrecht, gerade auch diejenigen Tugenden waren, welche der Unterwerfung unter die Fügung des ethischen Gottes und der Priester selbst zugute kamen, und als sie alle ferner in gewissem Maß Komplementärtugenden der religiösen Grundtugend der Mächtigen: der großmütigen Karitas, darstellten, und als solche von den patriarchalen Nothelfern selbst bei den von ihnen Unterstützten erwartet und gewünscht werden.

折原訳
祭司層は、そうした社会層に特有の、質朴さ・困窮への忍耐強い順応・既成の権威にたいする謙虚な献身・不正にたいする弱腰の譲歩と寛容といった諸徳性を、つぎの事情から、それだけ排他的に受け入れざるをえなかった。すなわち、とりわけそれらの徳目が、倫理的な神と祭司自身の定めるところにたいする従順な服従を助け、さらにはそれらが全て、有力者の宗教上の基本徳目としての寛大な慈悲をある程度補完し、家父長制的な救難援助者自身も、被保護者に期待し、願わしいと見る徳目であった、という事情である。

丸山訳
祭司層は、この社会諸層の様々な特別な徳性を、つまりこれらの社会層の、単純さ、忍耐強い困窮への順応、所与の権威の従順な甘受、不正に対しての好意的な許容と寛大さ、そしてそれらはまたまさに倫理的な神と祭司自身への屈服・服従に役に立つ諸徳性であった場合には、そういったものとしての諸徳性をそれだけいっそう選択の余地なく受け入れざるを得なかったのである。そしてさらにはそういった諸特性の全てをある程度まで有力者の宗教的な基本徳性:気前のよい慈善、を補完するものとして位置付けられ、そしてそう言った諸徳性自身が、そういった有力者達によって保護された者達について、家父長制的な緊急時の援助者達自身によって期待され望まれる場合もそうである。

「宗教ゲマインシャフテン」の日本語訳作成にあたっての参考書籍

基本的に今回の日本語訳にあたって、ここ2年間ぐらいで「実際に読んだ」参考書籍リストが以下です。(新旧約聖書も全部読み直しています、もちろんクルアーンも。)最終的な日本語訳にも載せる予定ですが、取り敢えずここを見ている人のご参考として公開します。
一部だけ学生時代から持っていて、今回改めて参照した(例:フレイザーの「金枝篇」など)ものもあります。
また、例の羽入辰郎批判の時に、宗教改革や英訳聖書関係はここに載っているもの以外で数十冊レベルで読んでいるし、またキリスト教神学事典、仏教辞典のような辞典・事典類も入れていません。また儒教関係は中学生の頃からそれなりに読んでいますが、今さら挙げるまでもないので、一部だけしか載せていません。ちなみにジェームズ・レッグの論語の英訳(ヴェーバーも参照している)は、大学時代に平川祐弘先生の授業で一部を読んでいます。
折原センセの訳には色々問題がありますが、最大の問題はここに挙げているような文献をほとんど参照していないことです。調べようと努力した形跡も見られず、「訳注については創文社訳を参照してください」で済ましています。

ヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教、その他インド

1.辻直四郎訳、「リグ・ヴェーダ讃歌」、岩波文庫
2.岩本裕編訳、「ウパニシャッド」、ちくま学芸文庫
3.上村勝彦訳、「バガヴァッド・ギーター」、岩波文庫
4.森本達雄著、「ヒンドゥー教--インドの聖と俗」、中公新書
5.中村元著、「インド思想史」、講談社学術文庫
6.立川武蔵著、「はじめてのインド哲学」、講談社現代新書
7.渡辺研二著、「ジャイナ教」、講談社学術文庫
8.清水俊史著、「ブッダという男--初期仏典を読みとく」、ちくま新書
9.並川孝儀著。「パーリ語初期韻文経典にみる最古の仏教」、春秋社
10.梶山雄一著、「輪廻の思想」、講談社学術文庫
11.末木文美士著、「日本仏教再入門」、講談社学術文庫
12.金子大栄注、「歎異抄」、岩波文庫
13.日本思想体系11「親鸞」(教行信証)、岩波書店
14.宮田登著、「弥勒」、講談社学術文庫
15.長部日出雄著、「仏教と資本主義」、新潮新書
16.吉永千鶴子著、「チベット仏教」、岩波新書
17.ヴァーツヤーヤナ、岩本裕訳著、「完訳カーマ・スートラ」、平凡社東洋文庫

儒教・道教

18.坂出祥伸著、「道教とはなにか」、中公叢書
19.窪徳忠著、「道教の神々」、講談社学術文庫
20.姜在彦著、「朝鮮儒教の二千年」
21.貝塚茂樹著、「孟子」、講談社学術文庫

イスラム教

22.水谷周監訳著、杉本恭一郎訳補完、「クルアーン やさしい和訳」、国書刊行会
23.河田尚子著、「日本人女性信徒が語るイスラーム案内」、つくばね叢書
24.渥美堅持著、「イスラーム基礎講座」、東京堂出版
25.大川玲子、「聖典クルアーンの思想--イスラームの世界観」、ちくま学芸文庫

マーニー教、ゾロアスター教

26.山本由美子著、「マニ教とゾロアスター教」、山川出版社世界史リブレット
27.ニコラス・J・ベーカー=ブライアン著、 青木健訳、 「マーニー教--再発見された古代の信仰」、青土社

グノーシス主義

28.大田俊寛著、「グノーシス主義の思想--<父>というフィクション」、春秋社
29.荒井献著、「トマスによる福音書」、講談社学術文庫
30.荒井献、大貫隆、小林稔、筒井賢治編訳、「ナグ・ハマディ文書抄」、岩波文庫

ユダヤ教、キリスト教

31.聖書、聖書協会共同訳(旧約聖書続編付き、引照・注付き)、2018年、日本聖書協会
32.田川建三訳、「新約聖書 本文の訳」、作品社
33.B.U.シッパー、山我哲雄訳、「古代イスラエル史--『ミニマリズム論争』の後で 最新の時代史」、教文館
34.関根正雄著、「古代イスラエルの思想--旧約の預言者たち」、講談社学術文庫
35.浅野順一著、「予言者の研究」、講談社学術文庫
36.吉田博司、「旧約聖書の政治学--預言者たちの過酷なサバイバル」。春秋社
37.田川建三著、「原始キリスト教史の一断面--福音書文学の成立」、勁草書房
38.荒井献著、「イエスとその時代」、岩波新書
39.R.F.ホック著、笠原義久訳、「天幕づくりパウロ--その伝道の社会的考察」、日本基督教団出版局
40.ウェイン・A・ミークス著、加山久夫監訳・布川悦子・挽地茂男訳、「古代都市のキリスト教--パウロ伝道圏の社会学的研究」、ヨルダン社
41.ゲルト・タイセン著、廣石望訳、「イエス運動--ある価値革命の社会史」
42.コンツェルマン著、田川建三・小河陽訳、「新約聖書神学概論」、新教出版社
43.田川建三著、「宗教とは何か 上 宗教批判をめぐる」、洋泉社MC新書
44.N.T.ライト、岩上敬人訳、「すべての人のためのローマ書1,2」、教文館
45.聖アウグスティヌス、服部英次郎訳、「告白 上下」、岩波文庫
46.G.K.チェスタトン著、生地竹郎訳、「聖トマス・アクィナス」、ちくま学芸文庫
47.トマス・アクィナス著、稲垣良典・山本芳久編、稲垣良典訳、「精選 神学大全1,2」、岩波文庫
48.上田閑照著、「エックハルト--異端と正統の間で」、講談社学術文庫
49.シュヴァイツェル著、鈴木俊郎訳、「キリスト教と世界宗教」、岩波文庫
50.岡本亮輔著、「キリスト教入門の系譜」。中公新書
51.鈴木範久著、「内村鑑三」、岩波新書
52.赤江達也著、「矢内原忠雄--戦争と知識人の使命」、岩波新書
53.無教会史研究会編、「内村鑑三の系譜 無教会キリスト教信仰を生きた人びと」。新地書房
54.G.ジンメル、深澤英隆訳、「ジンメル宗教論集」、岩波文庫
55.ルードルフ・オットー著、立川武蔵・立川希代子訳、「インドの宗教とキリスト教」

神道

56.井上寛司著、「『神道』の虚像と実像」、講談社現代新書
57.久米邦武著、「神道ハ祭天の古俗」、明治24年刊
58.山村明義著、「神道と日本人--魂とこころの源を探して」、新潮社
59.島薗進著、「教養としての神道--生きのびる神々」

その他

60.谷川政美訳、「ウガリトの神話 バアルの物語」、翻訳工房
61.フランセス・イエイツ著、前野佳彦訳、「ジョルダノ・ブルーノとヘルメス教の伝統」、工作舎
62.ジョルジュ・デュメジル著、松村一男訳、「神々の構造--印欧語族三区分イデオロギー」
63.P.J.H.グリァソン著、中村勝訳・解説、「沈黙交易--異文化接触の原初的メカニズム序説--」
64.J.G.フレイザー著、吉川信訳、「金枝篇 上下」。ちくま学芸文庫
65.吉田禎吾著、「日本の憑きもの--社会人類学的考察」、法蔵館文庫
66.タキトゥス著、泉井久之助訳注、「ゲルマーニア」、岩波文庫
67.カエサル著、近山金次訳、「ガリア戦記」、岩波文庫
68.W.J.モムゼン他編、鈴木広他訳、「マックス・ヴェーバーとその同時代人群像」、ミネルヴァ書房
69.マーティン・グリーン、塚本明子訳、「リヒトホーフェン姉妹」、みすず書房
70.内田芳明著、「ヴェーバー『古代ユダヤ教』の研究」、岩波書店
71.内田芳明著、「マックス・ヴェーバーと古代史研究」、岩波書店
72.マックス・ヴェーバー著、丸山尚士訳、「中世合名・合資会社成立史」、Amazon Publishing
73.マックス・ヴェーバー著、丸山尚士訳、「ローマ土地制度史-公法と私法における意味について」、Amazon Publishing
74. マックス・ヴェーバー著、世良晃志郎訳、「法社会学」、創文社
75.マックス・ヴェーバー著、世良晃志郎訳、「支配の社会学 1,2」、創文社
76.ハインリヒ・ミッタイス著、世良晃志郎・広中俊雄訳、「ドイツ私法概説」、創文社