Andachtを「帰依」と訳すまずさ

創文社訳も折原訳もドイツ語のAndacht(信心深い敬虔な気持ち、祈祷)を仏教用語の「帰依」と訳しています。おかしな翻訳は逆翻訳をやってみればチェック出来ます。ドイツ語で「帰依」はZufluchtであり、「避難所、拠り所、庇護を求める先」という意味です。つまり「帰依」という訳はこの意味からしてもおかしいということになります。大体創文社訳はやたらと仏教用語寄りに訳していて、それをまた折原訳が無批判に流用してしまっています。日本人に分かりやすいと思ってそうしているのかもしれませんが、学術論文で述べられたことに対して間違ったイメージを与えてしまっています。

Andachtはグリム辞書の説明では、attentio、intentio、Sammlung der Gedanken auf einen Gegenstand、inniges Andenken
となっていますから、「注意、専心、思いの何かの対象への集中、内的な思考」という意味で、ここから「帰依」という日本語訳は普通出て来ないと思います。

折原浩訳の問題点(68)

と思ったら次の文もまた誤訳。なんで最後が「異なってくるだろう」になるんでしょう。まず推測じゃなくて断定ですが、それだけでなく、es kommt auf etwas an (~次第となる、~が重要となる、~に依存するようになる)という構文がきちんと訳されておらず、またauf 以下が2つ出てきて並列なんですが、何故か訳し方を変えています。「告解が成立すれば」も変で、「告解が行われるようになった場合では」「告解が存在している場合には」だと思います。

原文
Diese Mysterien kannten also meist keine Beichte. Wo aber die Anforderung ritueller Reinheit zur seelischen Sündenreinheit rationalisiert worden ist, da kommt es nun weiter auf die Art der Kontrolle und, wo die Beichte besteht, auf deren möglicherweise sehr verschiedenen Charakter für die Art und das Maß der ihr möglichen Einwirkung auf das Alltagsleben an.

折原訳
したがって、そうした密儀はたいてい告解を知らなかった。とはいえ、儀礼上の清浄への要求が、魂の罪なき清浄へと合理化されると、いまや[そうした要求に応ずる]制御の方法が問題となり、告解が成立すれば、それが採りうる多種多様な性格のうち、どんな性格の制度が採用されるかに応じて、日常生活への可能な作用の性質と程度も、異なってくるであろう。

丸山訳
これらの秘教はそれ故に多くの場合、告解というものを知らなかった。しかし儀式においての清浄さへの要求が合理化されて[儀式参加者の]魂の罪なき清浄さ[への要求]となる場合は、そういった秘教にとっては次には、そういった要求をどうコントロールするかが重要になり、また告解というものが存在している所では、更には告解の日常生活への考えられる作用の性質とその程度についての、考え得る限りで様々に異なった性格も重要になる。

折原浩訳の問題点(67)

今日は誤訳ないかと思ったら、やっぱりやらかしてくれます。本当に神経の行き届いていない、下書きレベルに過ぎない雑な翻訳です。
ここではキリスト教以外の話をしているのに、何故「聖礼典を受ける資格」が出て来るのでしょうか。「聖礼典」や「秘蹟」の意味も良くわからずに訳しているということが良く分かります。「個々の特別の重罪」も原文にはないことを勝手に追加しています。schwere が「殺人罪」にしかかかっていないことは明らかです。
この方、論文のタイトルに「プロレゴーメナ」とか使う人ですから、それなりにカントは知っているんでしょうが、定言命法を理解もしていないし、実践もしていないと思います。

原文
Fast alle antiken und die meisten außerchristlichen Mysterienkulte haben dafür lediglich rituelle Reinheit verlangt, daneben galten unter Umständen schwere Blutschuld oder einzelne spezifische Sünden als disqualifizierend.

折原訳
古代のほとんど全ての密儀礼拝およびキリスト教以外のたいていの密儀礼拝は、そうした要件として、たんに儀礼上の清浄のみを要求した。それとならんでは、事情次第で、重大な殺人罪ないし個々の特別の重罪を犯せば、聖礼典を受ける資格を失うものとされた。

丸山訳
ほとんど全ての古代の、そして大部分のキリスト教以外の秘教的礼拝は、ただその礼拝に対して儀式においての清浄さを要求したし、それと並んで事情によっては程度のひどい殺人罪や個々に特別に定められた様々な罪は、礼拝への参加資格を失なわせるものとされた。