再考:合名会社と合資会社の起源について

ヴェーバーの「合名・合資会社成立史」をこの正月休みに改訂して読み直しましたが、翻訳していた時には気付かなかったことを段々と考えるようになって来ました。まず、合名会社の起源については、ヴェーバーが説くように、家計ゲマインシャフトから発展したものであるということは、現在でも定説のようですので、こちらは一応OKとします。気になるのが合資会社の方で、Wikipediaによれば、各言語での合資会社の表現は、羅: societas in commendam、独: Kommanditgesellschaft、仏: société en commandite になります。見ていただければお分かりのように、いずれも「コムメンダ」に相当する表現を含んでおり、すなわち現在での定説は「合資会社はコムメンダから発達した。」になります。この定説の長所は、コムメンダは、出資者と航海者というように対等ではない人間関係に基づいているため、合資会社における無限責任社員と有限責任社員の差別をある程度説明出来るということです。逆に短所は、コムメンダでは航海する側は出資していないのに対し、合資会社での有限責任社員は一応出資者であり、そこがどうしてそうなったのかを説明するのが困難です。一方ヴェーバーの合資会社がソキエタース・マリースから発達したという説ですが、こちらは本来の出資者と航海者が両方出資しており、それでも立場は対等ではないため、合資会社の2種類の社員の差をある程度説明出来ます。ただヴェーバーは、無限責任社員となったのは、貿易事業に関わる出資者(複数)・航海者の中で、capitaneus(キャプテン)と呼ばれるいわばリーダー的な存在だと論じています。この場合、もし航海者がcapitaneusになったとすると、通常ソキエタース・マリースでの航海者は一人ですから、そこから出来た合資会社のプロトタイプにおける無限責任社員は一人だけ、ということになります。このことは歴史的な実例に合致するのか、ヴェーバーは法規のみしか論じていないのでそこは不明です。また逆に複数の出資者の中から誰かがcapitaneusになった場合を考えると、この場合も一人(何故なら通常会社の社長は一人ですし、トップが複数いるのは多くの点で不都合でしょう)であり、他の出資者よりリスクの高い地位を引き受けるインセンティブやメリットは何なのかが不明です。いずれにせよ、無限責任社員が1名というのが本当に歴史の真実なのかがポイントです。もし合資会社の無限責任社員が1名であるのが通例なら、このことは合資会社が合名会社から発展したものであるという大塚久雄他の発展段階説のはっきりした否定になります。何故なら合名会社では社員(出資者)が1名ということは、今の日本の法律では認められるようになっていますが、本来は絶対にあり得ないからです。
私見では、コムメンダとソキエタース・マリースは、元々厳密に区別出来るようなものではなく(法律上の規定は別として)、例えばジェノバの公証人の記録に出て来る例では、ある冒険心には富んでいるけどお金の無い若者が、まずコムメンダで金持ちから出資してもらい、対スペイン貿易を決行して成功し、1/4の利益を得、次にその得た利益を全額出資して、今度はより儲けることの出来る可能性の高い中東地域との貿易で再度前の出資者と組んでソキエタース・マリースを行う、という風にある意味一種のオプション選択に過ぎないものであったと理解すべきと思います。なので定説がコムメンダ起源にしていますが、この場合のコムメンダはその変種であるソキエタース・マリースを含むと解釈すべきと思います。いずれにせよヴェーバーの「成立史」の欠点は、そういった経済史的な実例の分析が弱く、慣習法から制定法に変わっていく法的な取り扱いだけしか見ていないことで、ヴェーバーの論述だけで合資会社の起源について確定的なことを述べることは出来ません。

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