”Zur Geschichte der Handelsgesellschaften im Mittelalter”の日本語訳について

このポータルサイトを開設したのは2018年10月でしたが、それ依頼「準備中」状態が続いていました。ようやくヴェーバーの最初の論文である、”Zur Geschichte der Handelsgesellschaften im Mittelalter”の英訳を読み始めました。ところで英訳のタイトルは、”The History of Commercial Partnerships in the Middle Ages”のタイトルになっています。”Partnerships”とは「合名会社」のことです。これまで日本ではこの論文のタイトルは「中世商事会社史」と一般に呼ばれてきました。しかし、この「商事会社」という訳は色々な意味で問題のように思います。
(1)「商事会社」というのは昔の商法にあった規定で、「民事会社」と対になるもので、商行為を目的とした会社のことです。それに対し民事会社というのは農業や漁業のような「民事」を目的とするもので現在の民法における「組合」のことです。この2つの区別は、商法上ではどちらにせよその構成員の利益を目的としていることは同じで、区別する意味がなくなったとして廃止されており、現在の日本の法律上「商事会社」という言葉は一部例外的に商法以外のマイナーな法律に残っている以外は消滅しています。
(2)「商事会社」が生きていた時代であっても、それは限りなく現在の一般的な「会社」の意味に近くなります。もしかすると”Handels”=商取引なので、法律用語としての商事会社ではなく、単なる造語で商事会社としたのかもしれません。しかしヴェーバーが使っているHandelsgesellschaft(en)という単語は、現在のドイツの会社法では、前にoffeneが付きますが、「合名会社」(構成員が外部に対し無限責任を負う会社)のことです。この場合の”offene”は匿名ではなく、会社として登記している、というぐらいの意味と考えられ(別にドイツでは匿名組合というのがあります)、ヴェーバーも「合名会社」の意味で使っているのは明らかです。(もちろんヴェーバー当時の現在の「合名会社」ではなく、その成立期のプロトタイプみたいなものですが。) ちなみにモーア・ジーベック社から出ている全集でも、このタイトルに対する注としてoffene Handelsgesellshaftの発展を述べたものである、とはっきり書いており、間違いなく「合名会社」の意味と解釈しています。
(3)現在で「商事会社」というと一般的には「商社」を連想し、これは明らかな間違いです。

(付記 2019年7月15日:丸山眞男の「戦前における日本のヴェーバー研究」によれば、伊藤久秋という人が、1921年にヴェーバーの追悼記事を書いており、その中に「最著名なるは南欧伊太利の材料に基づける中世商業会社史にて学者の商業会社発達を論ずるもの、本書を掲げざるはなし」とあります。やはり単純にHandels=「商業」と思い込んでいることが良く分かります。この論考で丸山眞男は自身の思い出として田中耕太郎博士による商法の講義で「『中世商事会社の歴史』を参考書の一つとしてあげられ」と書いています。)

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