Zur Geschichte der Handelsgesellschaften im Mittelalterの日本語訳のタイトルについて、これまで「中世合名会社史」として来ましたが、日本語訳も終盤にさしかかり、色々検討した上で最終的な邦訳のタイトルを「中世合名・合資会社成立史」にします。以下がその理由です。
1.「中世商事会社史」の「商事会社」という表現は、他の所で書いたように現在の日本の法律で「商事会社」と「民事会社」という区別がもはや存在せず、またその区別がされていた時代にも実質的な区別の意味はなかったということを考えると適当ではないと考えます。
2.「商事会社」は一般には「商社」と解釈される場合もありますが、ヴェーバーの論文はもちろん商社だけを扱ったものではありません。
3,ヴェーバーがこの論文で扱っているHandelsgesellschaftは合名会社と合資会社のみで、今日一般的な有限合資会社(GmbH)や株式会社(AG)については何の言及もありません。これには理由があり、「商事会社」は人的商事会社(ヒトが支配する会社)と資本的商事会社(カネが支配する会社)に分けられます。この論文では人的商事会社のみを扱っています。いわゆる株式会社については、19世紀になって外からドイツ(プロイセン)に入って来たものであり、ドイツの中で合名会社や合資会社から発達したものではありません。有限合資会社は元々は有限会社であり小規模な株式会社と考えることが出来ます。それが有限合資会社に変ったのは、税制上で有限会社(社長一名だけの会社も多かった)に対して、法人への課税と社員の給与に対する課税で二重に課税されたということが起き、それに対抗するために20世紀初頭に考え出されたものが有限合資会社で、合資会社の無限責任社員が有限会社である(=つまり結局は有限責任であり、無限責任を負う社員は存在しない)というものになります。ちなみに、株式会社と有限合資会社については、その後商法からは取り除かれ、それだけを規定する専用の法律が作られています。
おそらくは大塚久雄の「株式会社発生史論」で言及されていることから来るものと思われますが、よくこのヴェーバーの論文を「株式会社の起源を探った」という風に解釈されている場合があります。これは完全な誤解であり、この論文はローマ法のソキエタスから、連帯責任と固有財産や商号を備えた合名会社がどのように生まれて来たかについての考察がメインであり、それとの対比で合資会社についての考察も付け加えられているものです。当初の博士号論文(第3章)では合名会社のみだったので、タイトルも「イタリアの諸都市における合名会社の連帯責任原則と特別財産の家計ゲマインシャフト及び家業ゲマインシャフトからの発展」となっていますが、その後の他の章の追加の際に合資会社の考察も付け加えられたので、ヴェーバーは合名会社と合資会社の両方に当てはまる表現として「商事会社」を使いましたが(論文の序論を参照)、ここに書いた理由でその呼称は不適当と考えより具体的に説明する「中世合名・合資会社成立史」としたいと思います。
参考:山田晟著 「ドイツ法概論 III 商法・労働法・経済法・無体財産権 第3版」、有斐閣、1989年